君だけしか知らない僕の

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「きおくそうしつ」 「そうです。信じてもらえないかもしれないけどそうだったんです」 「いや信じるよ。確かに君の言動はどこかおかしかったし」 中心街を抜けて帰路へと向かう最中、常陸は思い出したことから忘れていたことまで全てを白状していた。 あの契約を結んだ日はもうそりゃあテンションも神輿に乗って最高潮にまで上がっていたのに、次の日になって急に初な反応になっていたら驚きもするだろう。 そう尋ねると、朝の件は少し驚いたな、君有言実行の人だから。ところころ笑われた。信用してくれているのだなあ。 「あれ受け入れた時は結構心臓バクバクでしたからね。さらっとやばいこと言っちゃったんじゃないかって思ってほぼ何も覚えてない」 「そこをすっぽり忘れたとなれば、それも関係しているのでは…?」 「いや多分そうですねこれ。うわあ複雑……。 というか、先輩の言い回しが絶妙だったもんで、告白でもしてたかと思いましたよ。さっきの演技のこともあったし…」 あはは、と軽口のつもりでそう言ったのだが、何故か柚李先輩は何も言わない。どうしたんだろうと思って顔を見れば、ぽかんと口を開けて固まっている先輩の姿があった。 「え、どうしました?」 「……君、記憶は全部戻ってるんだよね?」 「すり合わせしたじゃないですか今。戻ってますよ」 「………そっか」 きょとんとする常陸を前に、柚李の頭の中によぎったのは目の前の彼の言葉。 「好きな人にそんな顔してほしくない」 (好きな人が辛い顔して欲しくないって、この子にとってはあれって、恋愛的な意味なんだ) 今日わかった新事実と照らし合わせて、柚李は何となくそれに気づいてしまった。思い立って常陸の顔を覗き込んでみる。お互い何も喋ってないのに、幸せそうに笑っていた。 (この子、僕のこと好きなんだ) 何だか胸がぎゅうと縮まる感触がして、この秘密を晒してしまうべきか、迷った。気づいてしまって知ってしまった。黙っていられそうにないのに、口が動かない。 劇薬みたいなこれは、いったい何なんだ。 (僕だけしか知らない君の隠し事)
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