秘密保持契約書

1/1
前へ
/1ページ
次へ
1.名前、年齢以外、過去について話してはいけない。 2.10年後、対象者が成人するまで保護し、守らなければいけない。 3.契約内容・理由を対象者に話してはいけない。 アナタは、秘密保持契約書を契約しますか? YES/NO 「お母さん、こっちきて!」 そう言われて、コンロの火を止めて、息子のところへ向かう。 「ほら見て、絵を描いたんだ!  こっちがお母さんで、そっちはボク!」 にこにこと、笑顔で描いた絵を見せてくれる。 「上手に描けてるわね。将来は画家さんになるのかな?」 「ううん、ボクはお医者さんになりたい!」 そんなことを言ってたのは、いつのころだったろうか。 あれから、今日で十年目の誕生日。 「誕生日おめでとう、もう今年で18ね。  来年からは一人暮らししてみたいんだっけ?」 「うん、母さんごめんね。」 急にインターホンの音が鳴る。何となく見当はついていた。 「私が出るわね。」 「あ、ボクが出るよ。母さんは座ってて。」 そう言って息子が出ると、外には黒いスーツとサングラスの男性が3人。 「何か御用ですか?」 「……そうですね、あなたに。」 小さくスーツの男が何かを呟くと、息子の意識がなくなりスーツの男に倒れこむ。 「秘密保持契約、守っていただけたようですね。」 「……守ってたわよ。」 「こちらも手荒な真似をせずに済みました。では、この『T-101』は回収していきますね。」 成長し、意志のあるロボット。それが息子だったもの。 もうあれは、アンドロイド、人造がどうとか言うレベルじゃあ、ない。 あんなものを作ってる会社があるなんて、気が狂ってる。 そんなロボットに未練がある私も。 曲がりなりにも10年以上世話をしていたから、情でも移ったんだろうか。 TVCMでは、人間に似たロボットが笑顔で解説している。 もう、人間とロボットの違いは、何もなくなっていた。 だけど、あの子からしたら、私はまだ母親のはず。 そう組まれたプログラムなだけかもしれないけど、それでもいい。 この10年の間に対策は考えておいた。ルートも調べた。 ……私は、息子を、取り返すだけだ。ただ、それだけだ。 グッと手に力がこもる。深呼吸してからスマホを見る。 画面には、GPSによる位置情報とマップが表示されている。 目的地は現在移動しており、その目的地は。 「じゃ、ここからは、母さんが頑張ってみる時間、だね。待ってなさい。」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加