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楽譜庫にて事件の予感
「何か弾いてちょうだい、フィオネル」
と、主人に言われたフィオネルは、魔王城の楽譜庫にやってきていた。
金の片眼鏡に執事服。今日も今日とてお嬢様のワガママにつきあう執事、フィオネルである。
豪奢な絨毯の先にある黒色の扉は、楽譜庫への入り口だ。魔界にある様々な曲を集めた場所。ここならば彼女の気に入るものも見つかるだろう。
軽く息をついて、扉をノックする。すると「はーい」と返事が聞こえたので、フィオネルは楽譜庫の中に入った。
扉をくぐると、まず目に入ってくるのは重厚な棚、中に収められた楽譜。
そしてこじんまりとした受付と、その中にいる管理人である。
「なんだい、フィオネルかい。悪いけど今日は店じまいだよ。帰っておくれ」
入り口に佇むフィオネルをちらりと見て、赤毛の女性がぶっきらぼうに言った。
楽譜庫の管理人、赤鬼のイアンナだ。バッサリと切ったショートの赤毛に、鍛え上げた腕、不愛想な態度。
どう見ても楽譜庫にいるのが似合わない戦士然とした風貌ではあるが、周囲は彼女の能力を信用して、ここを任せている。
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