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ピンク色のエプロンが、案外と似合っていた。もちろんフィオネルにとっても彼女は顔なじみの相手だ。
いつになく機嫌の悪そうなイアンナに、フィオネルは笑って言う。
「なんだ、ご挨拶だな。こっちはお嬢様に言われて、いくつか楽譜を探しに来ただけなんだが」
「アイリーン様に? そっか……でも、今日はよくないよ。ちょっとトラブルがあって、休館にしようと思ってたとこだったんだ」
「どうしたんだ? 何があったんだ?」
ぼりぼりと気まずそうに頭をかくイアンナに、フィオネルは首を傾げる。
見た限り、特に楽譜庫に異常はない。管理人たる彼女を困らせるならよほどだろうが、今のところ部屋に火の手があがったり、コウモリが飛び交ったりといったようなことはなかった。
むしろフィオネルの主人である魔王の娘が起こしたトラブルの方が、よっぽどである。きょとんとする執事に、半眼でイアンナは言う。
「案内板が壊れちまったんだ。まったく、誰のイタズラか……目的の曲を知らせる表示が、むちゃくちゃになっちまってる」
「そうなのか」
彼女が不機嫌な原因は、どうやら目の前にある案内板の不調らしい。
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