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後半の言い淀みが気になったが、言われたとおりフィオネルは楽譜を並べる棚に向かった。
『赤-1-1』とは、赤の棚の上から一段目、一の仕切りの中にある、といった表示である。
メモに浮かび上がった文字をチラチラ確認し、フィオネルは赤く塗られた棚の前にたどり着いた。
「ええと、この中だな」
最上段の一番左。
この仕切りの中に、目的の曲の楽譜がある、はずなのだが――あれ、前に来たとき、ここにあの楽譜があったっけな? と一瞬フィオネルの脳裏に、疑問がかすめた。
その途端。
「――⁉」
フィオネルの手にしたメモ用紙から、突然金色の光が噴き出してくる。
キラキラとした光の粉が舞い上がる。魔法の光だ。蝶の鱗粉がごとき――こちらに害をなすようであれば反撃に出る、とフィオネルは身構えるが、光の粉は彼を無視して宙にのぼった。
渦を巻く大量の金の粉は、いっそ幻想的ですらある。
思わず息を呑むくらいに。素晴らしい大魔法の予感にフィオネルが震えれば――それとは裏腹に。
光の粉が集まって表示された文字は、ひどく単純なものだった。
『バーーーーカ!』
「……は?」
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