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美しい金粉で作られた目の前の文字に、フィオネルはあっけに取られる。
眉をしかめる彼の前で、金の文字はさらに言葉を紡いだ。
『バーカバーカ、外れ外れ! ここの楽譜は違うものでーす! まんまと引っかかったなバーーーーカ‼』
「……」
イタズラ。
イアンナがそう言った意味が、今さらながらフィオネルにも分かった。
確かにこれは、楽譜庫を休館させてでも復旧しなければならないだろう。
それほどの一大事だ。違う場所を表示して、たどり着かなければ捜索者を罵倒する案内板など管理人の沽券にかかわる。
というか。
「……イアンナ」
「なんだよフィオネル。だから言ったろ、表示が変なことになってるんだって」
「……この場にある楽譜を全部切り刻んで一からつなぎ直せば、解決したことにはならないか?」
「だからって力技で切り抜けようとするんじゃないよ、このジェノサイド執事が‼」
未だに『バーカバーカ!』と嘲笑するように踊る金の文字を見ていると切れそうになる。
怒り心頭で風の魔法を発動させようとするフィオネルを、イアンナが必死になって止めた。
そしてこの騒ぎにより――楽譜庫の異変はお嬢様の耳に入ることになる。
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