お嬢様は探偵がお好き

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 唇を尖らせて、アイリーンは紅茶のカップを手に取った。必然、読んでいた本は傍らに置くことになる。  ベッドに伏せられた本を、フィオネルは首を傾げて見る。 「ちなみに、今は何の本を読まれていたのですか?」 「人間の世界で流行っている推理小説よ。ミステリー、といったかしら。なかなか凝った造りで面白いのよ」 「ははあ。先日、人間の街に偵察に行った小妖精(ピクシー)が仕入れてきたものですな」  ふかふかのベッドの上にある厚い本は、ともすると魔導書にも見えたが――中身はいたってシンプルな娯楽小説のようだ。  お嬢様に妙なことを吹き込んだらあいつ殺す、とピクシーのことを頭の中で血祭りにしかけたフィオネルだったが、ほっと一安心。頭を使う本であれば、教育にも問題ないだろう。  容認しかけたフィオネルに、アイリーンは言う。 「すごいのよ。探偵というものが出てきて、事件を解決していくの。殺人事件の犯人を見つけたり、なくなったものを探し出したり、暴かなくてもいい秘密を暴いたりするの。私も将来、こんな風になってみたいわ」 「ちょっと待ってください、魔王の娘が探偵を希望してどうするんですか」  目をキラキラさせて言うアイリーンに、執事は突っ込んだ。  魔王の正統後継者として育っているアイリーンが、探偵などになられては困る。聞き込みをし、張り込みをし、「犯人はあなたよ!」などとびしりと指を突きつける金髪の女の子。想像しただけでお目付け役としてめまいがしてくる。
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