お嬢様は探偵がお好き

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 息抜きにと読んでいた小説だが、アイリーンは思いの外はまってしまったらしい。  よくある、物語の主人公を自分に投影してしまうヤツで――とフィオネルが頬をひきつらせていると、アイリーンは続ける。 「あーあ。魔王城(ここ)でも何か、事件が起こらないかしら。そうしたら私が、ちゃきっとズバッと解決してみせるのに」 「アイリーン様、めったなことを言うものでは――」 「大変です、フィオネル様!」  ようやく制止しかけたフィオネルの元に、部下のミノタウロスが駆け込んできた。  息を切らし、慌てた様子のミノタウロスを見て、フィオネルは目を鋭くし言う。 「何事だ。お嬢様の御前であるぞ」 「し、失礼をばいたしました! だ、だどもオラ、びっくりしちまって……!」  平服するミノタウロスにはよほどの事情があるらしい。ただ事でない様子に、フィオネルは態度を緩める。  アイリーンの部屋に無礼にも入り込んできたのは万死に値するが、それほどにミノタウロスは混乱しているようだった。  事情を訊こうとするフィオネルに先んじて、アイリーンが言う。 「何かしら。話してごらんなさい」 「へ、へい――それが」  下々の者にも優しく接するアイリーン――ではあるが、今回はその瞳の輝きにフィオネルは違和感を覚えた。  あれは、彼女が城を抜け出して、人間の街を見て回った前の日の夜に見せた目。  新しい魔法を思いついたと言って、辺り一帯を丸焦げにしたときにも見せた目―― 『探偵になりたい』。  そう言い放ったばかりのアイリーンに、ミノタウロスは魔王城で起きた事件を述べる。 「死んでるんです――サイクロプスが! 誰かに殺されているんです!」
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