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幸いにも主人は、怯えるだけの少女ではない。静かに黙祷し辺りを見回していたアイリーンは、手掛かりとなる存在に問いかける。
「ムラゾウ。あなたが大きな音を聞きつけて、ここに着いたらサイクロプスが殺されていた、ということでいいのよね?」
「へ、へい! おっしゃるとおりでございます!」
アイリーンの質問に、近くに控えていたミノタウロスが慌てて答えた。
ムラゾウ、という名前のこのミノタウロスは、死体を見つけてアイリーンの部屋までやってきたモンスターだ。
つまり第一発見者である。報告に来たときはだいぶ混乱していたが、少し経って落ち着いてきたらしい。
ムラゾウはアイリーンの視線に促され、自分がここにやってきた経緯を述べる。
「見回りの交代をしようと、近くを通りかかったら大きな音がして――何かあったのかと走っていったら、死体を見つけたんでさあ!」
「大きな音というのは、恐らくこの床に穴を開けた一撃よね。他に何か気づいたことはない? なんでもいいわ」
「他に、というと何も思いつきませんけど……何かあったかなあ」
「おい、おまえ」
考えようと宙を見上げるムラゾウに、今度はフィオネルが問いかけた。
執事の目は、ムラゾウの膝と手を見ている。
「おまえ、どうして身体に血がついているんだ」
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