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それだけで疑ってかかるのは、根拠が弱い。魔王城内という身近なところで起きた事件だけに、気が立っている――と、謝り倒す部下を見て、フィオネルがため息をつくと。
『お嬢様』が言う。
「あまりいじめないであげてフィオネル。私が関わってきてしまったから、気を遣っているのでしょう?」
泣きそうになっているムラゾウをかばったのは、フィオネルの主人、アイリーンだ。
金髪で黒のドレスを着たアイリーンは、魔王の娘でもある。当然、上に立つ者としての気品も兼ね備えている――自室でダラダラしているとき以外は。
お目付け役としてアイリーンの執事となっているフィオネルである。
たとえ彼女がクッキーを食べながら昼寝していても。魔法で重要書類の偽物を作りまくっても。己が主を守ろうと警戒の度合いは高める。
しかし、いささかムラゾウに対してはやり過ぎた。
状況証拠だけで問い詰めるべきではなかった――やんわりと制止してくるアイリーンに「申し訳ございません、取り乱しました」と謝り、フィオネルは少し頭を冷やした。
「嘘感知の魔法に引っかからなかったもの。ムラゾウは嘘を言っていないわ」
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