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そのズレは、この歳になるまでずっと解消されなかった。地下深くプレートが動くみたいにゆっくりと深くなっていって、今回の事件へと発展した。
そう考えれば、事件の理由の一端は、私にもあるかもしれない。
「……どうしてこうなったんだろうな。昔はただ好きだったのに」
「……今は?」
「冷静になったら分かるよ。もう好きじゃなかったんだと思う。いわば、ただの執着だな」
「そっか、そんな気がしてた」
達輝の話はこれで終わりのようだった。疲れ切ったように、彼はだらんと項垂れる。最近は見栄を張ったような姿しか見ていなかった。ここまでやつれた彼は、久しぶりに見た。
「それで、どうされますか」
江本さんが言うのは、自首するか否かだろう。
「動けないようなら連れて行きましょうか」
「自分で行くよ。まだ出たところにいるだろうしな」
達輝はふっと笑って、肩を落としながら立ち上がる。
とぼとぼと店内を移動して、外の戸に手をかける。そのバックでは、赤色灯が回って、目が痛かった。
最後に達輝は、私を見た。視線が束の間、絡み合う。
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