三章 火野カブ漬け

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真空パックで封をされた中身は、エコバッグやビニル袋から出てくるなら分かるが、ブランドのロゴには全く馴染まない。 「……一本漬けの大根?」 「うーん。一個ずつは小ぶりだから、カブかな?」 私は江本さんの顔を見て、真偽のほどをうかがう。そうですね、と彼はカウンターの奥からトレーに手を伸ばして裏返した。 「このカブ漬けがどうかされましたか。市販のものではなく、誰かの手作りだとお見受けしますが」 「えっどうして分かるの」 私には出来合いにしか見えない。 「賞味期限のラベルシールが貼ってございません。剥がした後もなさそうですので」 「探偵の噂は本当みたいね、すごいわ、はじめくん。そうなのよ、これは貰い物なの。というより押し付けられたって感じなのよね。実はこれ、今朝私の家のポストに突っ込まれてたの」 「このままの状態で、でしょうか」 「うん、裸で。だから郵便でも宅配便で届けたのでもないみたいなのよね。たぶん直接投函されてるんだけど、差出人はもちろん不明」 それは、なんというかありがた迷惑な話だ。貰っても、どうにもできない。
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