三章 火野カブ漬け

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昔、友達が受け取っていたラブレターのことを思い出す。かなり長文で思いが綴られ、本気度は伝わってきたけれど、記名がなくて「誰?」で終わってしまった。大事なのは誰からか、だ。 「これ実は毎年なのよ。毎年この時期に届くのね、これ。他に被害があったわけじゃないから警察には届けてないんだけど……やっぱり気にはなってね」 それが連続ともなれば、もはや恐怖でしかない。 「おばさん、また変な男と付き合ったりしなかった?」 「あーその線はあるかもねー」 身内なので、私はずけずけと踏み込む。 最近でこそぱったりだが、彼女は少し前まで、浮いた話に事欠かない遊び人だった。その美貌を活かして、捕まえた男は数知れない。ただ、その大概はダメ男というオチがつくので、この歳でも結婚はできていない。 「こちらのカブ漬けですが、食べたことは?」 「あるわけない。だって怖いでしょ、なに入ってるかわからないし」 「そうでしたか。こちら、開けてしまっても?」 「うんいいよ、やっちゃって」 江本さんはその場で封を切る。そして、まるで理科の実験のように手で煽って匂いを嗅いだ。
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