三章 火野カブ漬け

12/38
75人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
土曜日、それなりにお客様も入って、忙しかったバイト終わり。お腹は空いていたけれど賄いは断って、私はすぐ帰路に着く。 もし母が犯人なら、家に同じようなカナカブ漬けがあるかもしれないと思ったのだ。 母が漬物を作っている姿は、中学生の頃だったかに見て、おぼろげに覚えていた。たしか、私のおばぁちゃんから教えて貰った方法だ、と硬くおっかない顔をして野菜を揉み洗っていた。おばぁちゃんのことが嫌いならば作らなければいいのに。こう正直に言ってしまいゲンコツを落とされた苦い記憶が蘇る。 というのも、母は祖母とも常に仲が悪かった。これも私にとっては普通のことだ。うんと背の低い頃から祖母の家に行く時は、一人で行かされた。 のちに叔母に聞いたところによれば、私の父と結婚する時に、大きく仲違いして家を出たきりだそうだ。同じ台東区内、目と鼻の先でも母は頑なに実家へ寄り付かなかったらしい。 それは祖父母が他界して、叔母が一人で住むようになった今も継続しているそう。 全く頑固にもほどがある。せめて父と離婚をしたあとに仲直りをすればよかったものを。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!