三章 火野カブ漬け

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もしそれもしたくないほど忌々しかったのなら、なぜわざわざ直伝の漬物を作っていたのか。 全くもって分からない。中学生の頃よりはいくらか賢くなったつもりだけれど、今考えても同じ感想しかわかなかった。 「……漬物って言ったら普通はキッチンだよね」 家へ帰りついた、夜の十一時。母はもう寝室に下がっていて、リビングはしんと静かだった。 私は、音のカモフラージュとしてテレビのチャンネルをバラエティ番組に合わせてから、調査に乗り出す。 まず探ったのは、私にとっての大本命。冷蔵庫からだった。まるで業者がやるかのように、一つ一つ物を除いては精査していく。しかし、やってもやっても 「漬物は……ないか」 成果は、副産物として発掘した賞味期限間近のクロワッサンくらいだった。 見るからに詫びしい晩ご飯だ。衝動的に帰ってきたけれど、思えば三十分遅くなったところで変わらない。こんなことなら、賄いを食べて帰ればよかったかなと思う。 湿気たパンを唇に挟んだまま、お次はシンク下のキャビネットを開けやっていく。しかし、どうしてもどこにも漬物は見つからなかった。 もしかすると母ではない誰かだったのかもしれない。
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