三章 火野カブ漬け

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和装ではない格好は初めて見た。シャツ一枚にジーパンというラフな格好だったが、様になるのはそのスタイルのよさゆえだろう。 「……えっと、その服いいですね」 「あぁすいません。今日は会計作業をする予定だったので適当な格好でして」 「もしかしてお邪魔でした?」 「いえ、ちょうど数字に向かうのにも飽き飽きしていたところでございます。ご用件は、漬物の件でしょうか」 「分かってたんですね」 「休日に僕に会いたいとなれば、それくらいしか思いつきませんよ。大方、誰がやったか分かったのでしょう」 江本さんはそう言って、ノートを閉じる。それから私の方を一度見て、なぜかまたページをめくりだした。 「佐田さんは、なにか用事の前後でいらっしゃいますか?」 「……ここに来るだけですけど」 「申し訳ありません。少し勘ぐってしまいました。服がとてもお似合いだったので」 もしかして褒められた? とは、少し間を置いてから気がついた。かーっと血が上ってくる。 「こ、これ! 差し入れです!」 だから袋に顔を隠して手渡した。 「……ご丁寧にありがとうございます」 江本さんは半身で受け取って、ほんの少しだけ口元を緩める。
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