三章 火野カブ漬け

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私は取り急ぎ、スマホでメモを取る。そこからは、なんだか少し勉強会みたいになった。マンツーマンの徴税宅抗議だ。 まとめると、食材にはそれぞれ食べ頃があるのだそう。てっきり、新鮮であればあるほどよいと思っていた。 それはなんだか、今回の私に似ているかもしれない。 「急ぎすぎてもいいことばっかりじゃないですもんね、人も」 こうしてまったりする時間も、時には大切というわけだ。 「そうかもしれませんね。結局は一歩一歩でございます。それといえば、佐田さんの地道な努力のおかげで、店にも段々とお客様が戻ってまいりました」 「……いえ、私はそんな大したことは」 「おかげさまで今月は黒が出そうです」 「本当ですか!」 江本さんは、あくまで見込みですが、としながら会計ノートを真ん中で開いてくれる。見方がよく分からず、覗き込んでいるとうっかり肩が触れてしまった。 「右側の列が売上金で、左が諸々の費用なのですが──」 江本さんが教えてくれるのにも関わらず、私は近いところに寄ったその顔を見つめてしまう。 だめだめ、集中しなくては。
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