三章 火野カブ漬け

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むりくりノートに意識を戻したところで、風鈴がからんと揺れる音がした。江本さんの肩越しに扉の方を振り返れば、 「本当仲いいねぇ、こっちが妬いちゃいそう」 どういうわけか、叔母が立っていた。イメージにぴったり、挑戦的で、真っ赤なドレスが揺れる。 「えっ、なんで? 今日はお店休みなんじゃ」 「あぁ、いらっしゃいましたか。僕がお呼びしたんですよ」 こう江本さんは澄まし顔をして、 「そうそう、勝手に逢瀬の邪魔をしに来たわけじゃないわよ」 叔母はくくっと口に手を当て笑う。 「そちらにおかけください。お茶をご用意いたします」 「あぁ水でいいわよ、冷たいので。歩いたから暑くて」 二人が当たり前に会話を交わしはじめる中、私はといえば一人置いていかれていた。 どうして叔母が来たのだろう。それに呼んだということは、二人は連絡先の交換をしていることにならないか。 もしかして、江本さんも叔母の大人な魅力に惹かれていたりなんかして……。 「バイトなのに、手伝わなくていいの?」 「今日は休みだからいいの!!」 ぐるぐる頭が回って、少し取り乱してしまった。叔母は、はぁとしょうがなさそうなため息をつく。
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