一章 山梨・ほうとう、群馬・おっきりこみ

2/54
前へ
/231ページ
次へ
     「全ての謎は上野御徒町の郷土料理屋へ」                                  たかた ちひろ 一章 山梨・ほうとう、群馬・おっきりこみ      一 運命なんて、もう信じない! 人で溢れた御徒町駅前の交差点、私・佐田結衣はその決意に拳を固めた。すーっと桜の匂いがする春の空気で深呼吸。信号が赤から青に変わると、誰よりも先に道路へと躍り出て、我先にと反対に渡る。湧き水のように人を吐き出すアメ横を、一人ずんずんと遡っていく。 「──お姉ちゃん、大学生でしょ? だったらさぁ就活の合間、うちのクラブで働かない……あっ、いややっぱり大丈夫! です!」 あんまりひどい形相になっていたのだろう、お水の勧誘が勝手に引き下がっていったが、気にしない。 元々私はそういうツラなのだ。細く尖った目は、キツネのようとよく言われてきた。少し機嫌が悪くなると、人を怖がらせることもあるのは承知している。 そんなことより、今はとにかく酒だ。 行くあてはなかった。飲み屋で、すぐに座れるところ。条件はそれだけ、アルコールに浸れればどこでもいい。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加