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ひふみさんは、紅茶に角砂糖を溶かしているところだった。スプーンが陶器に当たって、からからとリズムよく音が鳴る。
機嫌はよさそうだった。もしかするとうまくいったのかもしれない。そう邪推をしかけていたら、
「しっかり断られたよ〜」
へらへらと軽そうに笑った。
「なんだったら、もうご飯も持ってこないで、って言われたよ。手伝ってもらったのに、ごめんね。こんな結果で」
彼女は頭の後ろに手をやり、あくまでも笑顔のまま続ける。
それが作りものなのは、潤んだ目で分かった。
今の彼女に私の思いをぶつけるのは、あまりに身勝手というものだ。どう言葉をかけていいか分からなくなって、口をつぐむ。
「それで? さたっちの話って?」
この流れでは言いにくい。私がもじもじときまり悪くしていたら、
「まぁ大体分かるけどね」
ひふみさんは、また角砂糖を入れながら言った。
「さたっちも、えもものこと好きなんでしょ?」
スプーンを半時計に回す。ひふみさんの口角は、変わらず上がっていた。けれど、しっかり上を向いたまつげの奥、目は笑っていない。
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