五章 深川めし

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ひふみさんは、紅茶に角砂糖を溶かしているところだった。スプーンが陶器に当たって、からからとリズムよく音が鳴る。 機嫌はよさそうだった。もしかするとうまくいったのかもしれない。そう邪推をしかけていたら、 「しっかり断られたよ〜」 へらへらと軽そうに笑った。 「なんだったら、もうご飯も持ってこないで、って言われたよ。手伝ってもらったのに、ごめんね。こんな結果で」 彼女は頭の後ろに手をやり、あくまでも笑顔のまま続ける。 それが作りものなのは、潤んだ目で分かった。 今の彼女に私の思いをぶつけるのは、あまりに身勝手というものだ。どう言葉をかけていいか分からなくなって、口をつぐむ。 「それで? さたっちの話って?」 この流れでは言いにくい。私がもじもじときまり悪くしていたら、 「まぁ大体分かるけどね」 ひふみさんは、また角砂糖を入れながら言った。 「さたっちも、えもものこと好きなんでしょ?」 スプーンを半時計に回す。ひふみさんの口角は、変わらず上がっていた。けれど、しっかり上を向いたまつげの奥、目は笑っていない。
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