五章 深川めし

33/60
前へ
/231ページ
次へ
「うん。店に来るな、って言った僕から慰めの言葉をかけても説得力ないだろうから、だってさ。 本当は秘密にしておいてって言われてたんだけどね。その秘密をバラすのがさたっちへの恩返しで、えももへのちょっとした仕返し!」 べーと赤い舌を出してから、ひふみさんはふふっと相好を崩す。 「あたしだけに頼んだんじゃないみたいだよ。共通の知り合いには声をかけたんだってさ。ちなみに、あたしがさっきの店の前にいたのは、たまたまじゃないよ?」 その一言で、今日起こった出来事全てに合点がいった。 叔母は、偶然私をランチに誘いに来たのではなかったのだ。あのフレンチ店を選んだのもなにも、江本さんに頼まれてだったわけだ。 スマホをいじっていた彼女の姿を思いだす。あれは料理の写真を撮っていたんじゃない。江本さんを通じて、ひふみさんと連絡をとっていたんだ。 ただ突き放しただけじゃなくて、ここまで私のことを考えていてくれた。その事実だけで、もう思いが溢れ出してしまいそうだった。 「それで、さたっちはどうしたいの?」 「私は……」
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加