五章 深川めし

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私はろくに飲んでいなかったコーヒーをぐいっと飲み干して立ち上がる。釣られたのか、ひふみさんも一気飲みして、甘すぎる! と頬を引きつらせていた。角砂糖の入れすぎは無意識だったらしい。 「お店に行きます! 私が狙われてるのに、江本さんに任せっぱなしではいられませんから」 「そっか、うんうん、いいと思う。じゃあ健闘を祈る!」 ひふみさんは、ぐっと親指を立てる。同じようにグッドマークを作ってから、私は拳をちょんと合わせた。 私はひふみさんを置いて、カフェを出る。『郷土料理屋・いち』は、程近いところにあった。本当は今すぐにでも行って、江本さんに会いたい。 でも、それより前にやっておかなければいけないことがあった。      四  六時少し前、私は上野公園の噴水前に一人で立っていた。 今日も人はまばらだった。雨はもう上がっていたけれど、ベンチが濡れていては人は寄り付かない。 開けた場所に誰もいないのは、なんだか寂しい光景だ。でも、今の私にはそれが好都合だった。
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