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傘を吊るした手首を返して、腕時計を見る。約束の時間まで、あと一分を切っていた。時間には厳密な彼のことだ。仕事で遅れているのかもしれない。
そう時計盤を見つめていたら、噴水が大きな音を立てて噴き上がる。
「よう、待たせたな」
時間ちょうど、顔を上げるとすぐそこに、幼馴染・達輝がいた。
「悪い、ぎりぎりになった。少しスケジュールが押したんだ」
土曜日にも関わらずラインの入ったスーツ姿、額の汗を拭って言う。
普通なら、ねぎらいの言葉一つあってもいい場面かもしれない。でも、私はもう心を決めていた。そんな余計な気を遣っている余裕はない。
達輝とは、昔からの縁があった。どれだけ粘着されてもこれまでは、振り切れないできた。
けれど、それも今日ここまでだ。私は、彼がなおも話を続けるのを遮る。
「私、達輝とは絶対に付き合えない。もう近寄らないで」
きっぱりと一線を引いた。
言葉には、幼馴染だろうが、元カレだろうが、もう関わり合わないという決意を込めた。よほど衝撃だったのか声も出せずに硬直した達輝を置いて、私は駆け出す。
「おい、待てよ!」
「待たない! 私はもうお店に行かなきゃダメなの」
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