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「……無事に設置が終わりました」
お酒のラックになった隠し扉が開いて、江本さんが戻ってくる。
私は、犯人が初恋の人かもしれないと打ち明けようとしたが、江本さんは左の人差し指を唇に当てた。
「いつやって来るか分かりません。いくら大きな音が鳴ろうとも、話していては反応が遅れます」
「……そうですね」
はちきれそうに息の詰まる空気が狭い空間に篭る。
なにも言ってはいけないのに、いやだからこそ、喉元には伝えたいことがたくさんこみ上げていた。
これまでのことへの感謝、最近の態度への懺悔に、素直な気持ちまで。いよいよ堪えきれず、口を開きかけた時、微かだが外から破裂音がした。
音量以外は、昨日聞いたものと同じだ。
「本当にかかった!」
「そのようですね。もっとも猫かもしれませんが」
江本さんはそれだけ言うと、和服の裾をだんご結びにたくしあげつつ駆け出ていく。
私はここにいるべきなのだろうけれど、ただ見ているのは辛抱ならなかった。私もすぐにあとを追う。
もし犯人なら挟み撃ちになれば、と正面の扉から店の外へ。しかし、もう江本さんは表通りの方まで走っていた。
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