五章 深川めし

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「……無事に設置が終わりました」 お酒のラックになった隠し扉が開いて、江本さんが戻ってくる。 私は、犯人が初恋の人かもしれないと打ち明けようとしたが、江本さんは左の人差し指を唇に当てた。 「いつやって来るか分かりません。いくら大きな音が鳴ろうとも、話していては反応が遅れます」 「……そうですね」 はちきれそうに息の詰まる空気が狭い空間に篭る。 なにも言ってはいけないのに、いやだからこそ、喉元には伝えたいことがたくさんこみ上げていた。 これまでのことへの感謝、最近の態度への懺悔に、素直な気持ちまで。いよいよ堪えきれず、口を開きかけた時、微かだが外から破裂音がした。 音量以外は、昨日聞いたものと同じだ。 「本当にかかった!」 「そのようですね。もっとも猫かもしれませんが」 江本さんはそれだけ言うと、和服の裾をだんご結びにたくしあげつつ駆け出ていく。 私はここにいるべきなのだろうけれど、ただ見ているのは辛抱ならなかった。私もすぐにあとを追う。 もし犯人なら挟み撃ちになれば、と正面の扉から店の外へ。しかし、もう江本さんは表通りの方まで走っていた。
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