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逃げていく犯人と思しき人物は、スーツを着ていた。男だろうが、そう速くは動けまい。速さは互角といったところだった。
私も表通りまで出る。和服とスーツ、大の大人がばらばらの格好で走っているともなれば、衆目を集めていた。
「その人止めてください! 放火魔なんです!」
私は、一か八かこう叫ぶ。
すると、通行人の人たちが壁をなすように固まってくれた。男の進路が阻まれる。身を反転しようとしたところを、江本さんが袖を制して取り押さえた。
スーツ姿の男はよろめいて、その場にへたり込む。
遠目に横顔を見て、驚いた。
初恋の人じゃない。ついさっき決別したばかり、幼馴染・達輝だった。
五
江本さんが達輝を捕まえて間もなく、現場には警察が駆けつけてきた。
繁華街の真ん中での捕物もどきともなれば、それなりの騒ぎになる。通行人の誰かが通報したのだろう。
江本さんは警察へ事情を説明する。ただ、達輝をそのまま引き渡すことはしなかった。私の願いに答えてくれたのだ。
情けをかけたわけじゃない。ただ、彼との関係を精算するためには、直接理由を聞いておかねばならない気がした。
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