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「あの壁に脅迫文を書いたのも、それが理由でしょう。元々は全然別の言葉が書いてあった。それを書き変えることで、佐田さんの思い出をも上書きしようと考えた。違いますか」
「……あ、あぁ」
「浅ましい考えですね」
まるで吐き捨てるようかのようだった。ここまで感情をあらわにしているのは、会って以来初めて見た。
私は呆気にとられる一方で、少し違和感を覚えた。
江本さんは、どうして壁の落書きのことを知っているのだろう。店舗を改装する時にでも見たのだろうか。だとしても、私が書いたものとは分からないはずだ。
私の疑問はさておき、話は進む。
「……そもそも結衣が俺に振り向いてくれない原因は、そのいっくんとやらにあると思ったんだ。結衣は中学生の頃、俺と付き合った時も、初恋をずっと引きずってたからな」
「…………知ってたの?」
「仮にもずっと好きだったんだぞ。分かるさ、それくらい」
達輝の眉がゆっくりと落ちる。
当時の私にしてみれば、達輝と付き合ったのは、友達に勧められたからという軽い理由だった。
けれど、彼には違った。本気で私を好きで、告白してくれていたのだ。
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