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この一瞬が最後になると思えば、散々困らせられて、こんな事件まで起きたというのに、少しだけ物悲しかった。
♢
達輝が自首したせいだろう。外が、にわかに騒がしくなる。
その一方で、店内は波を打ったように静かだった。事件が残した、後口の悪い余韻が身体に染みる。
「あまりすっきりはしませんね」
「そ、そうですね」
会話が弾むような気配は、全くなかった。
江本さんに言いたいことがたくさんあって、店まで来たはずだった。だのに、今は空っぽになっている。
そのぽっかり開いた穴を埋めていたのは、昔の思い出だ。
私は、じっと脅迫文が書かれた壁を見つめる。その塗料の奥には、きっとまだ私の書いた落書きが残っている。形の上では上書きされてしまったが、結果として、初恋の記憶は塗り替えられなかった。綺麗なまま、ここにある。
それが良かったのか悪かったのか、自分でも分からなかった。いつまでも、もう叶わない運命を大事に抱えていることが幸せに繋がるのだろうか。
少し難しいことに考え及んでいると、感情とは不釣り合いに、きゅうっとお腹が鳴った。
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