五章 深川めし

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毎度のことだが、間が悪い。それに、もう少し静かに鳴ってくれてもいいはずだ。なぜ聞こえよがしに鳴るのだろう。 「ご飯にしましょうか。ちょうど手早くできるものがございます」 「……はい」 けれど、江本さんの料理を食べられると思うと、私はただ頷いていた。 なぜか、キッチンの中へは入れてくれなかった。 手伝うといっても、頑なに断られ、理由も教えてくれない。江本さんは、耐久戦も辞さない構えだった。スイングドアの前に立ちふさがる。わざわざ揉めに来たわけではないから、結局、私が引き下がった。 大人しくカウンター席から、調理をする江本さんの手元を眺める。 そういえば最初、ここでバイトをすることになった日もその様に見惚れていた。なぜか同じシーンを見ているような気がしてくる。 それもそのはずだった。 ──あの時と同じ匂い。 味噌と潮の混じった香りがしていた。そこへさらに、ネギと生姜が切り出されて確信する。 そう、深川めしだ。 あの時も、過去の思い出が蘇って、懐かしさを感じたのだった。アサリだと勘違いしていたが、この店で出しているものは、初めからバカガイだったのだろう。
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