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またしても絵はぐにゃんと歪んでいた。局所で見ると悪くないが、上から引きで見てみたらバランスが全く取れていない。
「私がやりましょうか?」
そう横にしゃがむと、彼はこちらを一瞥する。
「おはようございます」
形式ばった挨拶をくれたあと、いえ、と彼は断りを入れた。
「お任せしてしまうのはよくありません。やってみなくてはなにごともーー」
その傍らで、ぽたぽたと音がした。
見れば、なんたることか筆先から絵具が滴り、もっとも大事な情報である店名が隠れてしまっていた。
「……江本さん、絵心ない?」
「はい。こればかりは昔から。仕方ありません、次ですね」
彼は、ダメになってしまった絵を丸めればいいものを丁寧に折りたたむ。
新しい画用紙を画板がわりの段ボールの上へ滑らせたはいいが、じっと白紙を眺めるだけだった。
「……この用紙でラストでございます」
「そんなに失敗したんですか! というか、それだけ描こうとしたんんですね」
たしか用紙のストックは三十枚近くあったはずだ。
「時間があったので」
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