二章 とり天

22/40
前へ
/231ページ
次へ
またしても絵はぐにゃんと歪んでいた。局所で見ると悪くないが、上から引きで見てみたらバランスが全く取れていない。 「私がやりましょうか?」 そう横にしゃがむと、彼はこちらを一瞥する。 「おはようございます」 形式ばった挨拶をくれたあと、いえ、と彼は断りを入れた。 「お任せしてしまうのはよくありません。やってみなくてはなにごともーー」 その傍らで、ぽたぽたと音がした。 見れば、なんたることか筆先から絵具が滴り、もっとも大事な情報である店名が隠れてしまっていた。 「……江本さん、絵心ない?」 「はい。こればかりは昔から。仕方ありません、次ですね」 彼は、ダメになってしまった絵を丸めればいいものを丁寧に折りたたむ。 新しい画用紙を画板がわりの段ボールの上へ滑らせたはいいが、じっと白紙を眺めるだけだった。 「……この用紙でラストでございます」 「そんなに失敗したんですか! というか、それだけ描こうとしたんんですね」 たしか用紙のストックは三十枚近くあったはずだ。 「時間があったので」
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加