二章 とり天

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「明日の学会は朝早いから、酔うのも早めがえぇやろ」 という酒好きならではの発想からだった。その言葉通り彼はすぐさま早速ビール瓶を注文して、 「江本が一週間かけて作ったっちゅう料理も気になるしなぁ。それに説得の時間は長い方がえぇ」 国見さんがグラスに注いだものを、ぐいぐいと流していく。今日とて他に人のいない店内に気持ち良さげな声が響いた。 「ではすぐに料理をお持ちいたします」 江本さんはと言えば、どうにか準備は間に合ったらしい。 少し斜めになっていた頭の手ぬぐいだけを結び直して、それから厨房へと立ち入った。私はその後頭部に垂れる紐の先に、猫のごとく釣られた。後ろから、ひょこひょことついていく。 一週間かけた料理とはどんなものだろう。昨日は結局教えてもらえず、気になっていたのだった。昨晩は、そのせいで寝付きが悪かった。 江本さんが冷蔵庫から取り出したのは、鶏胸肉だった。身に賽の目状に刃を入れてから、すり下ろした生姜とにんにくが溶かし込まれた醤油を回しかける。 あれ? これって……もやりと違和感が生まれた。
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