二章 とり天

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口々に褒め言葉が出る。料理としての出来がいいのは、昨日確かめているから間違いない。 「ほんで一週間かけたっちゅうんは嘘かいな」 問題は、なぜそんな虚偽の申告をしたか。 「十分と言う短時間で作ったものでもここまで美味しいのだ、と分かって欲しかったのです。それで引き合いとして、一週間かけた料理があると、作り話をさせていただきました」 江本さんはすらすらと言う。どうやら、モードが切り替わったようだ。まるで論文発表の壇上にいるみたく映る。 「とり天は元々、ある大分の中華レストランで、昭和初期にまかないご飯として出されていた料理でございます。 まかないだけあって、手早く作ることができる。けれど、その味は絶品だと瞬く間に広がり、今や大分といえばとり天、というほど全国で有名になっております。歴史が浅いにも関わらず、いわばソウルフード扱いです」 「なにが言いたい?」 関西人気質か、坂倉教授がせっつく。まぁもう少しとひらりかわして、
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