二章 とり天

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国見さんは、ばっと顔を上げる。瞳孔の開いた目で江本さんの手からそれを奪わんと勢い立ち上がった。しかし、高く掲げられてはリーチが及ばない。 江本さんは、両側からその木を引っ張った。すると、上半分が外れる。 金属部が現れて、USBだと分かった。 「なんや国見、それ発表用のデータか?」 教授の言葉による追及と、江本さんの静かなる訴えが彼女に向けられる。 なくしたはずのデータが出てきた。めでたしめでたし、という話ではないようだ。 私は、かばうこともできなくなって、どちらにも回れず、立ち尽くした彼女を見守る。 「そうだろうと僕は推測しております。帰りがけに慌てた理由は、僕が代役をするという話が蒸し返されたからでしょう。話題に上れば、嘘がバレるかもしれませんから。 ……データをなくしたわけじゃないのだろうことは、佐田さんのおかげで分かりました」 「へ? 私?」 傍観者になりかけていたから、抜けた声になってしまった。
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