二章 とり天

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「はい。佐田さんと喋る中で彼女はスマホを手慣れた様子で触っていましたから電子機器に弱いわけでないのだろう、と。であれば、たとえデータを紛失したとしても全てをなくしてしまうのはおかしい。それも二日前になって東京に来てからとこれば、なくし方の都合がよすぎるというものでしょう。 そしてすぐに明るく話をされていたので、もしくは本当に落ち込んでいるわけではないのかもしれないと考えました。割に先生のお酌に甲斐甲斐しく当たっていたのも、演技と見抜く一つのきっかけでした」 江本さんは坂倉教授と論議しつつも、私たちの会話にも耳を傾けていたらしい。そう言われて思い返せば、たしかに立ち直りは早かった。 ほう、と教授は聞き入る。国見さんの顔は、すっかり青ざめていた。 「……もう理由も分かってるんですか」 くぐもった声で言う。そこには、演技に興じる余裕はなさそうだった。 「大方、プレッシャーに耐えかねていたのでは? 学部生唯一の発表は、たしかに荷が重いですから」 「……その通りですよ。私には、注目を浴びながら発表するなんて無理なんです」 国見さんは、ぽつりぽつりと吐露していく。
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