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「今日のとり天は、佐田さんが揚げてくれました。昨日は失敗しましたが、それでも今日はほぼ完璧な加減でございました。自分にはできないと決めつけ、やっていなかったなら今日の成功はなかったでしょう」
「わ、私のことはいいですから!」
嬉しがるべきか、恥ずかしがるべきか。でも揶揄うようではなかったから素直に褒めてもらえたと受け取っていいのだろう。
「もちろん、強制はいたしません。発表するしないはあなたご自身でお決めください。でも、失敗を過度に怖がるのはおすすめいたしません、とそういうことでございます」
国見さんはそれをじっと聞いていた。拳を固め涙を堪えているのかと思えば、頭を大きく振り上げる。
「…………やりたいです、発表」
乱れた髪の毛の合間から覗いた目に宿っていたのは、闘志ともいえそうなものだった。江本さんは納得したように小さく息を吐いて、彼女にUSBを返す。先輩から後輩へ、バトンが受け継がれた瞬間だった。
「……ほな、江本。今日はもう帰るわ」
ずっと教え子二人の様子を黙って見ていた坂倉教授は、ここで口を開く。人差し指でクロスを組んだ。おあいその合図だ。
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