二章 とり天

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「それ、食べたいです!」 「よかった。実はもうストックして作ってあるのです」 江本さんは、例の隠し倉庫に踏み入る。抱えてきたボウルに入っていたのは、色とりどりのお餅のようなものだった。 「これは……あんこもち?」 「和歌山の郷土料理、いももちでございます」 「また、いももちですか!? 好きすぎませんか。ってあれ。でも前と違うような」 バターの香りもじゃがいもの匂いもしない。私が手に取りよく眺めていたら、江本さんは既に一つを咥えていた。 「同じ名前ですが、全く違うものでございます。さつまいもと餅粉を捏ね上げた伝統菓子です。中にあんこを入れたもの、きな粉をまぶしたもの、皮ごと潰したものとありまして──、佐田さん?」 「ふふっ、待って、もう無理。あははっ」 やっぱり面白い絵だ。あたかもイタリア紳士といった爽やかな容貌で、いかにもな餅をはんでいる。笑わないではいられなかった。 一見クールでとっつきにくいけれど、実は親しみやすい。少しずつ、江本さんのことが分かってきた気がする。
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