二章 とり天

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私も、餅をひとつ口にしてみる。ほくほくのさつまいも、あんこの甘みに蕩けそうだった。止まらなくなってしまいそうだ。右手で二つめ、左手で三つめを掴んでいたら、入り口のベルが鳴った。 「お客様がいらしたみたいですね。僕がいきますよ」 江本さんが言う。はっきり歯を見せて、笑っていた。珍しいなんてものじゃない。その一輪花のような笑顔に見惚れかけること少し、我に返った。江本さんは、私を見て吹き出したのだ。 「……いつもはこうじゃないですから!!」 じゃあその手のひらに乗った餅はなんだ。戻すのか、いや食べるんだろう。自分に、そう突っ込みたくなった。 私の言い訳から少し遅れて、江本さんの「いらっしゃいませ」との声がする。 さて、食い意地を張るだけではいけない。私も働かなくては。 お店の経営を上向かせるのも、挑戦の一つだ。      ♢ 翌日、国見さんから私へメッセージが届いた。学会での発表は無事にうまくいったらしい。かなり好評を得られたようで、もう次の発表機会も与えてもらったそうだ。
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