三章 火野カブ漬け

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「分かるわけないじゃん」 齢五十にして未婚。私に似た切れた目に、艶のある肌、姿が年齢不相応に若く美しいのと同じく、中身もいつまでも子供っぽい。 大人の色気があるのは、服と仕草だけだ。彼女はパーマのかかった亜麻色の長い髪を手櫛でまとめ、肩口に垂らす。じっと見ていたら、女の私でもどきりとしてしまった。 私がいい加減教えてよ、と焦れていたら、後ろから足音がする。 すでに制服姿、江本さんだった。 「ういろうをお出ししております。ういろうは言わずと知れた山口県の郷土菓子でして、あんこを──」 「そうじゃなくて! なんで紗栄子おばさんがここに?」 彼も彼で変わっている。この状況でまずお菓子の解説を求める人がいるだろうか。 「あぁ、そちらですか。なにやら佐田さんと僕に用事があるとのことです。開店時間よりずっと早くから店の前にいらっしゃったので」 「中に入ってもらった、と」 江本さんは首肯する。いぇーいと二十代でも引いてしまうようなVサインを掲げたのは、叔母だ。なんとなく身内の私が恥ずかしくなってきた。 「おー怖、目が尖ってるよ、結衣。笑顔笑顔!」 「あのね、誰のせいでこうなってると」
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