プロローグ

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プロローグ

 コツコツと石畳の床を踏む音が響いている。目の前を歩く黒髪の男は一時もこちらを振り返らずただひたすらに目的の場所へと足を運ぶ。  白い壁に覆われた廊下をただ歩いていると、進行方向に真っ黒な扉が見えてきた。扉の傍には男と同じ看守服を着た細身の男が立っている。 近寄ると細身の男の視線が身体を貫いてくる。 「例の人を連れてきた。開けろ」 「へぇ、その子が例の、ね」  細身の男はこちらを興味深そうに見てくる。 「おい」 「おっと、失礼。じゃぁ開けるけど油断しないでね」  軽い口調で言うが、彼の顔は真剣そのものだ。その言葉に深く頷くと、彼は懐の中から鍵を取り出して扉を開ける。  重い扉がゆっくりと音をたてて開かれる。 「いらっしゃい」  扉の向こうには、真っ黒の拘束着に身を包んだ男が椅子に座らされていた。  朱殷(しゅあん)色の硝子玉が二つ、俺をじっと見つめている。それは今にも俺に食らいついてきそうだった。
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