生贄旅館

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 胸から血を滝のように流している女を見下ろす。女の瞳は限界まで見開かれ、虚ろに宙を見つめている。 「少し手古摺ったわね」  これまでは寝ている間に始末していたけど、今回は薬の効きが悪かったのか途中で起きてしまった。だが、問題なく事を運べたので良しとしましょう。  懐からケータイを取り出し、一人の男に電話を掛ける。数コールで男は電話に出た。 「もしもし」  電話口から二十代の爽やかな男の声が聞こえてくる。 「私です。いつも通りよろしくお願い致します」 「はい、わかりました。直ぐに向かわせていただきます」  そう言うと、男は電話を切る。男の後ろで何か不吉な音が聞こえた気がするが、気に留めないように頭を振るう。男の腕は見込んでいるし、下手なことをして見限られたら困るのはこちらだ。それに、 ——あの男の片付けの対象にはなりたくないわ。  私は部屋を後にし、男が到着するのを待った。
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