14話《黒幕》

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14話《黒幕》

 翌日、朝食を終えた全員で話し合いをすることになった。助けるのはリャキナ、レジカ、トリム、ボラクの4人。そして4人はカトールとモトナと共にジェデットの屋敷にいるだろうと予測する。  「ジェデットの屋敷に侵入するのに警備がどれだけいるか。」  「前に行ったことはあるけど、警備はわからないよ。それに、別の邸だと思う。」  実際に行ったことがあるといっても、警備はわからない。1カ所しか通らずにいつも同じ部屋に行くのだ。熱を出している状態で帰れば、周囲をゆっくり見るなど出来るわけがない。  セザリシオがジェデットの家族編成や自分の知る情報を伝えるが、事実と異なることがあると知ることになる。  「報告が間違っているということか・・・。」  貴族たちの上への報告に偽りがあることを知った。デラドセイアが偽っているのだから、他の貴族も可能性がないと言い切れない。真実を話している貴族がいるのかさえ怪しくなった。  「ジェデットはいくつなの?」  「24歳だって聞いたよ。」  年齢もセザリシオが知るものと違っているのだが、ヴィシルは違う部分で疑問に思った。竜を捕らえて実験をしているのがジェデットなのだとしたら、最初がカトールで21歳というのはおかしい。カトールは竜の言葉を操っていた。竜の血を引いていることに変わりはないだろう。  「ジェデットが24歳なら21歳のカトールは3歳のジェデットが指示したってこと?」  「3歳・・・。無理、だね。」  「じゃあ、誰がカトールを?」  遺伝子を掛け合わせて産まれたと聞いた。それを指示しているのがジェデットだとも。しかし、そうなると疑問が生じた。3歳しか年齢差のないカトールの指示すら幼いジェデットがしていたとなる。果たしてそれは可能なのか。  疑問を口にしたヴィシルに、ミシュカが答え、そして更なる疑問をマノが言った。それはジェデットが黒幕だと思っていた子供達にそうではないのだと言っているようなものだった。  「おそらくデラドセイアの家そのものが、そうした実験をしているのだと思う。」  「それって、僕たちみたいな人がもっといっぱい居るってこと?」  セザリシオの予想したことに、デイアが言ったことは全員が息を呑むことになった。そう、デラドセイアが実験をしているということは、半竜の子供達はもっと多くいるということだ。子供ではなく成人している者も多くいるかもしれない。  この辺境でこれだけいるのだから、本来もっと多くいてもおかしくない。そしてカトールとモトナは、ジェデットの親が指示して産ませた子供という可能性が出てきた。いや、親ではなく、親の兄弟、親族という可能性もある。  「これじゃ、竜を助けられない。カトールとモトナに連れて行かれた4人も。」  セザリシオが呟くように言った。助けたい思いはある。きっと全員は助けられない。それでも、知り合った4人と竜だけでも助けたい。  人手も足りない。戦力も足りない。情報も足りなすぎる。ここにるみんなが強くなるために鍛えている時間はないかもしれない。力のない子供達を連れて危険な場所に行くことも抵抗があった。  ぐるぐると頭の中を巡る考えに、彼らを仲間と思えている自分にヴィシルは驚いた。守りたい存在へとセザリシオだけでなく、子供たちも変わっていたらしい。  「僕たち戦えるよ。」  「うん、戦える。」  戦えると言った子供たちは、簡単に拐われてしまう程度の実力しかない。そんな彼らを素直に頷いて連れていくわけにはいかない。  『僕たちだけでも助けに行こうよ。』  『助けを待ってる子もいるよね。それにみんなも。』  『カトールとモトナが出てきたらどうする?』  『全員でかかればなんとかならないか?』  『私、戦うの怖いよ。』  そんな会話が子供たちの間でされている。聞こえていないのはセザリシオだけだ。もし、この声が聞こえていたなら、落ち込んでなどいられないだろう。  孤児院に行く前までは子供達と同じように会話をしていたヴィシルとフィルとユデラだが、今は正体を隠すために会話が出来ずにいる。ヴィシルがこの会話で話しかけなくなったことを察して、フィルとユデラは自分たちもこの会話を今は止めている。  『竜が出てきたら?』  『僕たちの親だよね?話通じるかな?』  『無理だったらどうするの?』  『・・・。』  『助けるはずのみんなが操られて、敵だった場合はどうするの?』  それまで無言で聞いていたはずのチャスが最悪の事態を口にする。予想ではあるが、あり得ないことではない。助けに行った先で、助けるはずの子たちが敵になっている場合もある。それに、連れ去られたあの4人の子供達も敵になってしまっている場合も考えられる。  『そんなこと───』  『ないって言い切れないでしょ!だってカトールとモトナだって味方の振りして敵だったんだよ!?』  シャオムが違うと思いたいのか、口にした言葉は言い終わる前にチャスによって言い返されることになった。罠が所々に仕掛けられている可能性は十分にある。それを今、予測出来ているのはチャスだけなのだろうか。  『確かに、チャスの言っていることも可能性としてはあるよね。俺たちはまだまだ弱い。だから、強くなろう。みんなには悪いって思うけど、俺たちまであいつらに良いようにされたら、誰が助けてあげられる?』  『・・・。』  年長のセムアが言うと、それまで助けに行くと言っていたみんなが無言になる。ヴィシルはセザリシオに寄り添いながらも、そんな子供達を見守っていた。安堵感からヴィシルは薄っすらと笑みが溢れた。それをチャスは見逃さなかった。  「シル兄ちゃん?」  そっと人差し指を口に当て、内緒だとジェスチャーで示す。チャスには気付かれたようだ。ヴィシルがみんなの会話を聞き取れることを。チャスは何も言わず小さく頷いた。頭が良い子だ。それだけで通じたらしい。  『わかった。早く強くなって、それから助けに行く。』  シャオムの言葉にみんなが頷いた。そんな子供達の姿が視界に入ったのか、セザリシオが首を傾げる。フィルとユデラは見て見ぬ振りをしていた。さすが大人だ。  「みんなどうかしたの?」  「早く強くなろうって思ったの。そうしたら早くみんなを助けに行ける。」  セザリシオの疑問にマノが答えた。会話が聞こえていない普通の反応である。その差に気づいたのはチャスだけだったようだ。フィルとユデラをも見て、何か考え込んでいる。口を出さないだけなのか、それとも彼らも・・・。そんな疑問がチャスの頭の中にはあった。  純粋な竜族以外は高位の竜族が人型を取れるということを知らない。この場にいる子供達も、誰からも聞かされていないのだ。捕らわれている竜も、自分たちに混血の子供がいるとは知らないのかもしれない。いたとしても、どう接して良いのかもわからないだろう。  高位の竜族が消えたと言う話を聞いていない。過去にウェドリシアに渡り、それからずっとこの地に住む竜族がいないとは言い切れないが、もしいるのであればフィルたちが知っているのではないかと思う。彼らが何も言わないのだから、高位の竜族はいないと仮定してヴィシルは考えた。  どのように竜を操っているのかはわからないが、彼らを操り遺伝子を採り、人の遺伝子と掛け合わせる。そんなことを何度も実験として行なっている人物も気になる。何れは話をしてみたいとは思うが、まともに話が出来るかは疑問だ。  場合によっては、話す前に彼らが殺されるかもしれない。ウェドリシアがどうするのかはわからないが、現時点でセザリシオ以外の王族は、自分たちの国の貴族たちが竜を捕らえて実験をしているとは思ってもいないのだろう。  知る時が来るのかはわからないが、今はこの場にいる子供達を鍛えることを考えようと思った。デリクト村で待つ仲間たちも強くする必要がある。  (戦争でもするような気分だ。よくないことが起きそうな予感はするんだけど、どうすることも出来ないな。)  ヴィシルは内心ため息をつき、目の前のことをひとつひとつ片付けていこうと思った。何にしても仲間の戦力を上げないことには、これから先の敵に勝てそうになかった。  「セズ、急いで村に戻る?それとも、ここで少し訓練でもする?」  「訓練をしながら警戒しつつ戻ったほうがいいかなって思う。」  それもありかもしれない。一気に空を行くよりも、地上で訓練しながら戻る。セザリシオの意見に全員が首を縦に振った。  翌朝から訓練は始まった。朝食を終えてから魔力の制御を覚える。そうしてから体力をつけるために、全員が自らの足で移動することになった。初日は思った通りに子供達は夜になると皆疲れ果てていて、夕食を終えると揃って直ぐに意識を失うかのように眠りにつく。  歩くのに慣れて来た頃、魔力の制御をしつつ移動をする。魔力を使うことも相当な疲れとなるため、移動はそうスムーズにいくものではなかった。  追っ手が来ないとは言い切れない現状で、限界まで疲れ果てた状態で移動をすることは危険と隣り合わせではあったが、強くなりたいと言う子供達の意思は尊重せざるを得ない。いざとなれば、ヴィシルもフィルもユデラも戦う覚悟はある。  魔力制御をしつつの移動は全員が行っている。ヴィシルもフィルもユデラも子供達が歩くのに慣れることから始まった時からしていた。セザリシオもただ歩くだけよりはと、ヴィシルは同じことを教えてセザリシオにもやらせている。  ヴィシルとフィルとユデラは幼き頃よりしていたことのため、慣れたものである。セザリシオが安定する頃にはチャスも安定し始めていた。  (賢い子だとは思っていたけど、魔法の素質も高いのか。)  子供達の中で一番に魔力制御を安定させていたのはチャスだった。魔法の素質がここまで高いのであれば、適正属性がわかればそれを中心に魔法を覚えればそう時間がかからずに自分の身くらいは守れるかもしれない。そうして休みながら移動を続け、20日経つ頃には子供達も安定した魔力制御が出来るようになった。  「それは魔法を使うための基礎だから毎日続けるようにするといいよ。そうすれば魔法も日々上達していくから。」  子供達も、セザリシオも、ヴィシルの言ったことに素直に頷く。学園で習うことのなかった魔法の基礎。セザリシオは王族だから物心ついた頃から魔法も基礎訓練をしていた。それにも関わらず、ヴィシルの行う基礎訓練は聞いたことすらない。ギュシランの魔法の精度が高いことを、セザリシオはヴィシルやフィル、ユデラを見て知ったのだった。  20日が過ぎたけれど、目的のデリクト村まではまだまだ距離がある。半分も進んでいないだろう。国境沿いを移動しているのだから尚更だろう。竜の翼と地上を徒歩で移動するのとではかかる時間も全く違う。それほど竜の移動速度は何にも比べ物にならない程速い。  『助けて!誰か助けて!お願い!』  何処からか聞こえた声。しかし、それは人のものではなかった。セザリシオには遠吠えのような声に聞こえたに違いない。その場にいた子供達が一斉に反応する。フィルとユデラは周囲を警戒し始めた。  「ヴィシル、今のって。」  「うん、竜だね。それも子供の。」  何処かで親とはぐれたのだろうか。しかし、ウェドリシア王国内にまだ野生の竜が残っているとは思えなかった。帰国命令が発せられてから、野生の竜たちはギュシラン王国に帰ったはずだ。野生の竜だけでなく人とパートナーであった竜までも帰ったというのに、子供の竜がウェドリシアに残っていることが不思議でならない。それも助けを求めている。  「助けよう!」  「うん!」  デイアが拳を作って気合を入れ、助けようと言えば皆がそれに同意した。ヴィシルも賛成なため、何も言わずについていくことにする。何かの罠である可能性はあるが、行ってみないことには判断のしようがない。  声がした方へと皆で向かう。出来るだけ音を立てずに急いだ。そう遠くないことはわかっていたが、幼き竜が声を発したため、大型の魔物が集まりつつあった。助けを求めた幼竜の側に成竜がいないのだ。  崖がある場所に出たが幼竜は見当たらない。周囲の魔力や気配を探ると、崖の真ん中あたりにいくつか魔力があることに気づく。崖は見上げる場所ではなく、見下ろすのだ。それも底が見えないほどの深さである。翼がなければ助けを求める幼竜の元へ辿りつけないだろう。  既に飛べるからそこにいるのか、それとも親に連れて来られたのか。もしかすると生まれ育ちがそこなのかもしれない。他にそこへ行ける手段は何処にも見当たらない。ヴィシルは小さく息を吐いた。今まで隠し通して来たのだが、限界なのかもしれない。  「フィル、ユデラ。どっちか頼めるか?」  「俺がやる。」  何が?と子供達の視線がヴィシルとフィルに集まった。ユデラはフィルに任せるとばかりに空気となっている。セザリシオは崖の状態から見て察したのかヴィシルに聞き返しはしない。  やると言ったフィルは少し離れるとその姿を変えていった。目の前に現れた大きな紅竜に子供達は驚愕し動けなくなる。そうして落ち着いた頃にユデラにも視線を向けると、その瞳を輝かせていた。  「フィルさん、竜だったんだ。」  「ユデラさんもでしょ?」  フィルに視線を戻したマノの言葉に続いてミシュカもユデラに視線を向けて言う。  「そうだよ。でも、長く竜の姿でいると目立つからね。敵に見つかって襲撃を受けたいならここでのんびりしていてもいいけど。」  ユデラが答えたが、優しそうに見える表情で、その言葉は冷たい印象を与えた。ユデラに言われたことで急いでフィルに乗せてもらい、助けを求める声の主の元へ向かった。
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