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7話《冒険者ギルド》
セザリシオはミュアドから無理に聞き出すことはなく、まだ話せない様子のミュアドが自ら話してくれるのを待つらしい。
ミュアドは落ち着いたがすぐには自分のことは話せないと感じ、これからどうするのかを話し合うことになった。
「ずっとここに居続けるのも限界があるだろ?休学だって何年も出来るわけじゃないし。」
「うん。ただ、竜を連れて移動するのも昼間は無理だから夜に限られる。昼間は出来ることをするしかないんだけど、このまま籠り続けるわけにもいかないから。」
「でもよ、セズひとりでどうにか出来ることじゃないだろ?俺らも手伝いたいけど、セズみたいに王子で貴族に掛け合うとか出来るわけじゃない。王に謁見なんてもっと無理だ。」
「出来れば、ギュシランの手助けもほしいけど、ヴィシルはどこまで出来る?」
セザリシオとシュギの会話がヴィシルまで巻き込んでいく。どうやらシュギもセザリシオも、国の主要人物たちを動かしていきたいらしい。
だが、貴族に掛け合ったところで、今回のようなことにならないとは言い切れないとヴィシルは感じていた。
権力を持つのは王族や貴族ではあるが、それぞれの地に住む農民や、各地を移動する商人たちの心を掴む方が身近であるからこそ一番大変なのだ。
「シュギもセズも、どうして上ばかりを動かそうとするの?」
「だって、国政は王族や貴族が行うだろ?決定権も王族や貴族にある。だったらそいつらを説得していくのが手っ取り早い。」
「うん、シュギの言う通り、この国は王族と貴族で意見を出し合って会議という場で決め事をしている。各領地に住む人々の意見はそこの領主が聞き入れて、会議に持ち込むんだ。最終決定権は国王だけれど、ある程度までは話し合いや多数決というやり方で決めてるんだよ。」
疑問を投げかけたヴィシルにシュギとセザリシオがウェドリシアを知らないだろうとヴィシルに国のことを説明する。
しかし、ヴィシルはそういうことではないのだと、呆れた表情を見せた。
「各領地に住む人たちの意見を本当は聞いてないとしたら?会議に持ち込む段階で偽造することは可能だと思うよ?だって、領主以外にその地の人たちの意見を聞く人はいる?聞いたとしてそれを会議に持ち込める人は?今までそのやり方で今回のような事件も起きてるよね?ミュアドのお祖父さんの件も、その場にラシュアル家の人間は誰もいなかった。いなければ関わりがないって言い切れるんじゃないかな?証拠と出来るものが何もないんだよ。自分の領地の人を使って、見つかったら勝手にあいつらがやったことって言われたら、最悪な事態は逃れられるんだから。」
「そんなはずは・・・。」
言い訳を考えながら、ふと辺境に住んでいたミュアドの家族へとセザリシオは視線を向けた。
「確かに、意見を聞かれることはなかったかな。それ以前に領主様との関わりがあったことはないよ。」
初めて聞かされた事実にセザリシオは茫然とする。今まで辺境の人たちの意見を領主を務める各貴族たちが聞き入れているものだと思い込んでいた。
全員ではないだろうが、こうして領民の意見を聞いていない領主は存在する。ヴィシルの意見を先に聞かなかった自分も彼らと同じなのかもしれないとセザリシオは落胆した。
「知らなかった・・・。俺は王都生まれの王都育ちだし、親の仕事の関係もあるのか、普通に意見は求められてたからな。この国に住む人はみんな同じだと思ってた。」
シュギも初耳だったらしく、今まで当たり前に行われているはずのことが、なかったことに驚きを隠せない。
「今までのやり方が今回のような事件を起こしたんだから、違うやり方をしたらいいと思うよ。セズは王子でしょ?農民であっても、商人であっても、同じ目線に立ってみたら見えないものも見えてくるかもしれないよね?」
「そうだね。ヴィシルは、よく見てるよね。こうやって気づけるのって凄いと思うよ。教えてくれてありがとう。」
セザリシオがそれまでどうであっても、最後にはこうして聞き入れるからこそ、ヴィシルも自分の意見を言えるのだ。
ただ、自分も押し付けてはいないだろうかと、思い悩むこともないわけではない。けれど、何も言わないでいるよりはいいだろうと思うことにした。
「ただ、竜たちはどうしよう。しばらく旅をするのもいいとは思うんだけど、空を飛んでついてきてもらうわけにもいかないし、かといってどこかに隠れていてもらうのも、俺たちは動き続けるからはぐれそうだし。」
「あぁ、それね。」
『大丈夫。俺たちが人型になればいいことだね。』
『俺はこっちのが楽だから竜のままいたいけどな。面倒なことになるなら人型になる。』
セザリシオが一番の悩みだと言いたげに、竜のことについてを話すと、ヴィシルは思い出したかのように、その場にいた竜たちを見た。
当然のようにユデラもフィスも人型になればいいとヴィシルに伝えてくる。その声が聞こえて驚いているのはベイドナだった。
話の途中でマーグとキピニアも合流し、かなり密度の高い状態である。そんな状態の中4体の竜は姿を変えていく。
「服は変えたほうがいいな。」
「なんでみんな軍服なの?」
「なんでって、それはこっちのセリフだ。ユデラだけ私服なんてずるいぞ!」
「うん、ずるい。」
ユデラ以外の服装は、デリマラを迎えにきた青年と同じ服装である。違いといえば縁取りがそれぞれの体躯と同じ色でされていることだけだ。
竜は人型になると髪の色が体躯と同色になる。瞳の色はそれぞれ違うが、竜種の中で上位にある竜ほど瞳の色も体躯の色に近くなっていく。
銀聖竜はその点特殊であると言える。髪は体躯と同色であるが、瞳の色は統一して金なのだ。金と銀が王族である証なのかもしれない。
「えっ!?」
「嘘、だろ?」
「・・・。」
「まずは服を買うことだね。」
セザリシオもシュギも驚きの声を上げ、ミュアドは無言で目を見開いているが、ヴィシルだけは平常心で4体の竜の会話に入っている。
人型になる前から4体の竜と会話をしていた流れで、普通に会話に入ったのだが、そこにもみんなが驚いたようだ。
「ヴィシルって凄いよね。」
「いろんな意味でな。」
「もしかして、知ってたんじゃ・・・?」
「うん?」
ミュアドに知ってたのではと呟かれ「何が?」と思いながら首を傾げると、「そういうやつだよ」と何故か言われてしまう。
どうやらセザリシオたち3人のヴィシルに関しての認識は、ギュシランの人は竜に関してウェドリシアよりも詳しいということになっているらしい。
空を移動するのは緊急時だけにすることになったが、大所帯での移動をどうするか悩むところである。
「俺たちは旅は出来ないから、何処か安全と思える場所で暮らしていこうと思う。本当に安全な場所があるかはわからないけどね。」
「今でいうなら一番安全なのはギュシランだけど、あそこは・・・。」
ギュシランは竜族で作られた国である。そのため、人が移り住むことは許可されていない。竜の血を引く混血であるベイドナやミュアド、マリナならば受け入れられる可能性はあるが、人であるシェイリは拒絶されるだろう。
「大丈夫。俺たちがギュシランに行くことはないから。」
一番安全な場所にギュシランを上げたが、理由を言いとどまったマーグにベイドナは安心させるように行く気はないと言った。
ギュシランが人を国内へと入れるのは、国同士の会談が行われる時だけである。
「ヴィシル、ギュシランに何かあるの?ミュアドのお祖父さんはギュシランから迎えが来てたんだよね?それなら家族も歓迎されると思うんだけど。」
「セズ、ごめん。今は詳しくは話せない。言えることは、家族であっても行くことは簡単じゃないってこと、だけかな。」
ギュシラン王国だけでなく、国の内情はその国で生まれ育たなければ、わからないことは多い。
積極的に他国との繋がりを持とうとするウェドリシアに対し、竜族で作られたギュシランは閉鎖的な国といえる。
ウェドリシアとの交流があるのは、ウェドリシアが諦めずに関わりを持とうと根気よくアプローチし続けたからだろう。
「いつかは話してくれるんだよね?それまで待つよ。」
「うん、ありがとう。」
無理強いをしないセザリシオにヴィシルは感謝した。セザリシオは優しくて思いやりがある。だからいつかは話そうと思っているのだ。
「俺たちはリュジオルの街に行こうと思う。今までの家には住めないから、何も持っては来れなかったけれど、リュジオルに宛がないわけじゃないから。」
「リュジオルか。ラシュアルの領地からは出られるからいいか。みんなで一度リュジオルに行って必要なものを揃えようぜ。」
ベイドナ行き先を告げると、シュギが行ったことのある街なのか、全員で行こうと提案する。
ヴィシルは土地勘が全くないため、任せるしかない。
「そうだね。服も買わなきゃならないみたいだし。お金ならどうにか出来ると思うよ。リュジオルに向かおう。」
服を買うということは、リュジオルには服を売っている店があるのだろう。
セザリシオがお金はどうにか出来るというなら、甘えてしまおうとヴィシルは思った。
◇◇◇
リュジオルに行くと決めた翌日の昼には、リュジオルの街中にヴィシルたちはいた。
お昼時のため、食事をするために料理屋にいる。
リュジオルに来たヴィシルたちは真っ先に服屋へと行き、軍服のままの3体の竜の着替えをセザリシオにお金を出してもらい、購入することが出来た。
新しい服の3体の竜は、初めて着たらしいウェドリシアの服を、着慣れないせいか何度も服を見返している。
「この街には冒険者ギルドがあるね。」
「最近また活気づいてきたらしいな。」
竜がウェドリシアに来るようになってから今まで、人々の憧れは竜騎士であり、冒険者になろうという人が減っていた。
それでも依頼はあるせいか、生活のために冒険者になる者も少なからず存在する。
今では竜騎士への夢が閉ざされたと思ったウェドリシアの人々は、騎士という国に捕らわれるだけの存在よりも、冒険者へと職業を転向する者が増えているようだ。
竜がいればたとえ国のためだとしても、竜と共に生活でき、空を自由に行き来出来る環境への憧れの方が強かったのだろう。
「ここに来たのは冒険者登録をするためなのか?」
「うん、登録したからといって、騎士のように制限があるわけでもないし、取り消し不可能ってわけでもないでしょ。それに、自分たちで稼いでみるのもいいかなと思うんだ。」
昼食を終えて冒険者ギルドに行くと言ったベイドナに全員でついてきた。
ベイドナは仕事のために登録をしている所だが、セザリシオを筆頭に冒険者ギルドの説明を先に聞こうと、ギルド職員による説明をしてもらうため、部屋へと通されて待っている。
疑問を投げかけたシュギにセザリシオは登録して自ら稼ぐと言う。お金はどうにかなるのではと思わないでもないが、この選択は本当にいいのかとシュギは不安を覚えた。
「僕たち休学中だけど学生だよね?仕事出来るの?」
「セズが登録するって言ってるんだから出来るんじゃないの?」
不安になっているのはシュギだけではないようで、ミュアドも疑問を口にした。それに対してヴィシルが疑問形で答えるが、休学中の学生が冒険者ギルドに登録して仕事をしていくことが、可能なのかはわからない。
「出来るはずだよ。竜騎士学園にはあまりいないけど、自分で稼いで学校に通う人もいるからね。」
「お待たせしました。私は今回説明させていただく、当ギルドのパスクといいます。よろしくお願いします。では、ギルドについて説明をさせていただきます。では、まず冒険者ランクからですね。ランクは全部でEからSまでの6ランクあります。一番下がEランクで、D、C、B、A、Sと依頼達成をある条件までクリアするとランクアップの試験を受けることで上のランクへといけるシステムになっています。ランクが上がるほど依頼の難易度も上がり、依頼を達成した時の報酬も上がります。」
ヴィシルたちが待つ部屋に来たのは職員である20代らしき女性だった。
パスクと名乗った職員は冒険者のランクを説明し、ランクアップシステムや報酬についても説明していく。
「次に依頼の種類ですが、討伐依頼、採集依頼、護衛依頼、そして雑務依頼の4種類があります。討伐に関してはどの難易度であっても、2人以上が必須となっています。それぞれを組み合わせた依頼もありますが、依頼には最低ランクが設けられているので注意してください。最近では竜騎士がいなくなったことで、冒険者への護衛依頼も増えてきていますが、護衛依頼は最低がBランクなので、昇格時に改めて説明させていただいてます。採集は指定された魔草や薬草などを取ってくること、雑務はその名の通り雑用になります。」
依頼に関して聞いていくと、それなりに稼ぎを必要とするならば、討伐依頼を基本として他の依頼もこなしていくのが一番だろう。
人々との接点を持つことを思えば雑務が一番ではあるが、雑務ばかりしていると戦闘の腕が鈍ってしまうため、ランクを上げていくことは難しくなる。
「以上で説明は終わりますが質問などありますか?今でなくても依頼をこなして行くうちに疑問がでてくることもあるでしょう。いつでも受付の方で質問してくれて構いません。」
「今は大丈夫です。登録をお願いしたいのですが、いいですか?」
誰からも質問がないため、冒険者登録へと進んでいく。竜であっても気づかれなければ問題ないだろうと、全員が登録することにした。
竜が人型になれることは、デリマラいたあの洞穴にいたメンバー以外には知る者はいないだろう。
「わかりました。では、一人ずつ行いますので、最初の方からこちらに手をかざしてください。残りの方はこちらの用紙に必要事項の記入をお願いします。」
パスクがテーブルの上に置いたのは、学園の入学式の時に見た水晶だった。
学園と同じように機器に繋げられた水晶は、魔力量と属性を測定出来るものだ。
記入する用紙を渡され、測定してない間に他のテーブルで記入し始めた。
「えっ・・・?うそ・・・。」
ヴィシルの番になり水晶に手を置くと、水晶が虹色の強い光を発した。
ヴィシルの魔力の数値は多く出ているといっても、竜騎士としては通常値を示している。学園生ではなく現役トップクラスと同等ではあるが。
パスクが魔力量に驚いたのはヴィシルの魔力数値ではなく、フィス、マーグ、ユデラ、キピニアの4体の竜である。
彼らは何も制御をしていないため、魔力数値は常人のものを遥かに越え、水晶で測定できる上限を示していた。
ミュアドはヴィシルほどの魔力量はないが、それでも高い数値には変わりないだろう。
属性はフィスが火、マーグが水、ユデラが風、キピニアが地という一般的なひとつの属性しか判定されていない。
ヴィシルだけでなく、ミュアドにも全ての属性の判定が出ていて、これにもパスクは驚いていた。
複数の属性を持つ人は稀にいるらしく、ヴィシルもミュアドもその稀な人だと認識されたようだ。
魔法を基礎しか使えないことを伝えたヴィシルとミュアドに、パスクは敵にはならないでほしいと願った。
「これで終わりです。このままもう少しお待ち下さい。ギルドカードをお持ちします。」
機器を片付け終えたパスクは、もう少しだけ待つように告げると、部屋を出ていった。
「ミュアドはなんとなく納得できるけど、ヴィシルも全部の属性持ってたなんて凄いな。竜騎士より魔導士の方が向いてるんじゃないか?」
「確かにね。魔力量も凄いみたいだし。でも、竜騎士学園を選んでくれたからこうして出会えたわけだから。魔導士を選んでくれなくてよかったというべきかも。」
みんながいる場で測定をしたため、測定結果がこの場だけに公開された。
特に隠していたわけでもなかったヴィシルは、落胆している風でもなく、誉められて嬉しいというわけでもない。
行動を監視されたり、制限されなくてよかったと思う。魔力量が多かったり、使える属性が多いことで、危険視されなかったことに安堵した。
「お待たせしました。」
しばらくして、パスクがカードを手にして戻ってきた。ヴィシルたちのギルドカードである。
「そのカードは冒険者ギルド共通の身分証にもなるギルドカードになります。名前、属性、性別など個人情報も含まれているのでなくさないようにしてください。」
それぞれにカードが手渡され見てみると、左半分を大きく使いランクが書かれていて、右半分に名前や自分の属性、性別、年齢といった個人情報が書かれていた。
受け取ったギルドカードをしまい、宿探しを先にしておこうと、ベイドナたちと合流し外へと出る。
「依頼は明日からだね。宿を見つけたら少し夕食の時間まで街を見て回ろうか。」
街を見て回るというセザリシオの案に全員が賛成した。
ベイドナたちは住む場所を探すためでもあるだろう。空き家などがないかを探すには自分で見て回るのが一番である。
宿が並ぶ一角へと行き、その中で条件のよさそうな宿が空いていたため、数日間の予約を入れた。
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