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 逢魔が時―――。  商家と商家の間。人一人がやっと通れるかという細路。  それはその影からひっそりと現れるとゆったりと右に左に揺れながら店先に掲げられた提灯に火をともす。すると提灯に文字が浮かんだ。 「おい華也乎(かやこ)、開店だ」 「ああ」  火をともした影は狐火。その声に店主の華也乎は引戸をガラリと音を立て店を開ける。華也乎の頭上を飛ぶカラスがひと鳴きした。  すでに夕刻である。客はそろそろ帰る時刻であろうか。  だが迷い込んで来たなら仕方ない。  ――さあいらっしゃい。その綻びた心、飾ってあげようか。  ひょうと風が吹き華也乎の着物の袖がゆらめき、ほのかな灯りをともした提灯も揺らす。  提灯に書かれた【繍華堂(しゅうかどう)】と言う字も揺れていた。
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