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* 少ない貯金を全て持って家を飛び出した。 高校生の私が行けるような所はそんなにない。あては父方のおばあちゃん家。だけど、そっちに行くとすぐに足が付くと考えて方向転換した。 小学生の時に一度行ったきりの母方のおじいちゃん家にしよう。母と祖父は仲が悪かったのですぐには見つからないだろう。 新幹線に乗れるほどのお金はなく高速バスに乗り5時間掛けてその街に降りた。またそこから電車に乗る。 見知らぬ街の穏やかな緑と青の風景。 進行方向を向いて右の窓外には深い緑が広がり、左の窓外には鮮やかな青が広がっている。 南には海。 北には山。 終点で電車を降りると今度は船に乗って島に渡る。すると、漂う空気が変わっていて、胸の底まで大きく息を吸い込む。 「あー、着いた!」 島全体が御神体だというこの島の空気は清く澄んでいて少しピリっとしている。 前に来てから、7年か8年程経っているがそれほど町並みに変わった様子はないように見える。むしろ年月は都会よりゆったりと流れているように感じた。 観光客に混ざってふらりと観光でもしたい気持ちを抑え、一先ずおじいちゃん家に向かう。おじいちゃん家に行くにはまず賑わいを見せる商店街の清盛通りに入り、それから途中の横道を抜けて、古の趣を残す町家通りに出なければならない。 喧騒の少ない静かな町並みの間で視線を左右に揺らす。 確かおじいちゃん家は……――記憶を頼りに歩を進めると、どこからか何かを叩くような音と怒声が聞こえて来た。 それは少し遠いがぎりぎり視認出来る距離。目を凝らしてよく見るとそこはおじいちゃん家だ。 家の前で老人が白い犬に長い棒を振り落とし、メキッ、と重い音をたてて打ち付けているではないか。
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