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【2】
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Kインテリア株式会社。東京に本社を置き、関東圏を中心に全国に六つの営業所を持つ家具の卸売会社だ。私が配属されたのは横浜営業所の営業一課で、面接で聞いていた通り課長含め総勢五名の部署だった。
「谷川さんの産休の間一緒に働いて貰う原さんだ」
「原まひるです。よろしくお願い致します」
一課のメンバーが集まる島で私はペコリと頭を下げた。課長は「じゃあまずは野口さんから」と隣の男性に手を差し出す。
「野口です。いっぱい仕事お願いするから頼むね」
オールバックの真っ白な髪に、顔中にシワを寄せくしゃりと笑っている。人の良さそうなおじさんだ。
「堂本光二です。長男だったら光一だったかもしれない惜しい男です。知ってます? キンキ」
ツンツンと髪を立ち上げたいかにも若そうな彼は、笑顔でちょこんと首を傾げた。
「谷川です。原さん、私の居ない間お願いしますね」
真ん丸なお腹のギャルみたいな子が、そつのない笑顔を作る。この彼女もきっと私より年下だ。
「百瀬です。よろしく」
(あ。この人)
面接のときにすれ違った強面の人が最後に挨拶をした。マスク越しだけどやっぱり低くて良い声だった。
「じゃあ早速、谷川さんに付いて仕事を覚えてね。席はしばらく無いけど……そうだな。椅子は……」
「課長ぉ。遠藤さんに訊いてもらえませんかぁ? 余ってたのあったと思うんでぇ」
デスクに片手をついた谷川さんが課長に指示を出す。
(いやいや、逆でしょ)
課長はハンカチで首の後ろ辺りを拭いながら「……そうだな」と呟いた。妊婦だから仕様が無いんだろうけれど、娘と言ってもおかしくなさそうな若い女子に良いように使われていて立つ瀬が無さそうだ。
「あ、俺、聞いてきます」
そこですかさず手を上げたのは堂本くん。いかにも新入り雑用係。動きが速いのは素晴らしいけれど、きっとこの彼だって世間の荒波に揉まれて、あっという間に擦れていってしまうんだろう。
「じゃあ頼んだ」
「はいっ」
堂本くんはしゃきんと背筋を伸ばす。野口さんはニコニコ笑ってるし、反対に百瀬さんは無表情のまま。
(なんとなく一課の人間関係が解ったわ)
クマ課長はパチンと両手を叩いた。
「改めて業務開始。よろしくお願いします」
「「お願いします」」
全員の声が揃う。堂本くんは早速別の部署へ向かって行った。
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