84人が本棚に入れています
本棚に追加
(ユウコって誰よ)
「アハハ。マジで?」
お尻のポケットから分厚い黒い財布がはみ出して、Tシャツの裾が変に捲れ上がっている。あのシャツを直すのはスマホの先の彼女の役目になったんだろうか。
(狙ってるって、要は二股だったってことじゃない)
どこか楽しげな健の後ろ姿は、振り返ること無く店から出て行った。私は何も掴めなかった手をゆっくりと下ろす。
(健のくせにしっかりしてるじゃない)
脱力して落ちるように腰掛けると、板張りの床がギシリと軋んだ。隣の椅子に置いた鞄の底には、スカルのキーホルダーが付いた鍵が静かに眠っている。
はぁと重々しい息を吐いた。一人になって初めて耳に入ってきたのは、楽しげなJポップのインストゥルメンタル。
「もっと静かな曲にしてよ……」
独り言ちまぶたを伏せる。テーブルの上には空になった健のカップと、ぐちゃぐちゃな私のカップが残されていた。
最初のコメントを投稿しよう!