【7】

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【7】  日が落ちて、車道を走る車のヘッドライトが自己主張を始める時間帯、どこからかセミの鳴き声が聞こえてくる。もう七時近いというのに気温はまだ高く、どうせ行くなら涼しくてゆっくり出来るところが良いなと考える。 「あれ? 原か。まだ居たのか?」  営業所の入り口で、背中から声を掛けられた。振り返ると見慣れたブリーフケースを下げたエルダーがドアから出てきたところだった。 「百瀬さん」  立ち止まると、彼は大股で近付いて来て、私の目の前で歩みを止めた。 「帰るって言ってから結構たっただろう?」  そう言って腕時計に視線を落とす。私はそんな眼鏡の顔を見上げ「大滝さんに捕まってたんです」と返した。 「なるほど」  ――細かいわねぇ。嫌だわ、お姑さんみたい。  そう言って大滝さんは百瀬さんを笑っていたが、きっと百瀬さんも彼女に何かしらのイメージを持っているのだろう、「大滝さんに捕まっていた」という言葉ですんなり納得してしまった。  私は両手で鞄を持ち、僅かに首を傾げる。 「百瀬さんは早いんですね」  私より先に帰ったところを見たことは無かった。出社時間はまちまちだけれども、帰りは私より絶対に後。
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