【7】

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「あの、無理にとは……」 「それは……」  私が口を開くのと同時に、低い声が発せられた。 「それはセクハラにはならないのか?」  想定外の台詞にポカンと強面を見上げると、なんだか神妙な顔付きで私を見下ろしている。私は思わず吹き出した。 「ぷっ」 「な! 駄目か?」 (この人は……) 「人によってはセクハラになるんでしょうけど。今日は私が声を掛けたんですよ。大丈夫です。美人局じゃあるまいし」  百瀬さんは爪が短く切りそろえられた指で、眼鏡のブリッジを押し上げる。 「だからそういう加減が分からないんだ」  目の前の道路はまた車が流れ出していた。私は口元にこぶしを持ち上げ笑う。 「ふふ。百瀬さんって意外と小心なところがあるんですね」  思ったことをそのまま口に出すと、彼は眉毛を吊り上げた。 「……っうるせぇよ。原は知らねぇだろうけど、俺が教えた新人が次々に辞めていってな。これでも気をつけてるんだよ」  百瀬さんは吐き捨てるように言った。口調がいつも以上に悪い。こっちが本当の百瀬さんなんだろう。 「百瀬さんは……いえ」 (あえて正直に言う必要はないもんね)  短期派遣の三大原則。当たらず障らず波風立てず。空気のように過ごして、空気のように消えるのだ。
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