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面接に現れたのは人事を担当しているという総務の女性と、配属先になる課の課長だった。課長はクマみたいな大柄な男で、半袖のワイシャツから伸びる腕は太く毛深かった。
(うわ、もじゃもじゃ)
むせかえるような男臭さは苦手だった。だから生理的に濃い体毛の男は受け付けない。付き合う男だってどちらかと言えば中性的な人が多かった。
(無理だわー)
どうしても目がいってしまう腕から首元に視線を移す。しかし第一ボタンの開いた首元にも毛深さの片鱗が伺えて、思わずゲフンと咳払いをした。
「主な仕事はセールスのサポート。外回りから帰ってきたセールスが依頼する仕事もあるから、申し訳ないけど残業はあるよ」
「はい」
残業はごめんだけれど取り敢えず頷いておく。今までの経験上、定時ピッタリにあがれる会社はほぼ皆無と言って良い。
「原さんに入って貰いたいのは営業一課……自分の他に男性セールスが三人いる課です」
営業一課、三人とメモを取る。こういう場では取っている内容ではなく、メモを取っているという行為そのものが大切になる。やる気アピールというやつだ。所詮の短期でアピールが必要なのか、というところではあるけれど。
「そのセールス達と上手にコミュニケーションを取って貰いたいんだ。でも、今言ったみたいに男が多いでしょ。隣の二課もそうなんだけど、その辺りは問題ないかな? 何て言うか……人間関係的なところ」
課長は太い指でボールペンを揺らした。私と違いメモを取っている様子はない。
「そうですね。前の職場も同じように男性が多い環境でした。女性特有の陰湿さがない分、男性が多い方が仕事がし易いと感じます」
(そもそも短期だから人間関係は深入りしないので)
自虐的な考えに歪む口元を意識して引き締める。どうせマスクで見えないのだが。
しかし課長はしつこく続けた。
「精神的に強い方? 打たれ強いっていうか」
「はい。弱くはないと思います」
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