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 最近は夜も暑いだの、コーヒーを飲むなら砂糖は入れないだの、本当に他愛もない話をしながら駅まで歩いた。仕事のときはどちらかといえば無口な百瀬さんだけれども、流石セールスと言うべきか、何かしら話題を提供してくれたし、私の話も聞いてくれた。 (距離の取り方が分からないだなんて嘘なのかも)  立ち並ぶビルの間を抜けると、駅前の歩道橋が見えてくる。自粛期間中とは違い、人通りも多い。百瀬さんは私の方に顔を向けて言った。 「原は寄り道していくんだっけか」 「はい。横浜まで出ようかなって」  そうかと頷いて、眼鏡の顔は正面に戻る。 「百瀬さんは?」  思わず流れのまま訊いてしまう。 (訊いてどうするつもりよ)  自然と鞄を握る手に力が入った。 「うーん」  眼鏡の弦の奥にある細い瞳は、まるで眩しい夕焼けでも見るみたいに眇められる。
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