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「そうだなぁ。何かツマミでも買って帰るかな」
「え? 宅呑みですか?」
うっかり出てしまった台詞にマスクを押さえて立ち止まると、三白眼の強面がギリリと音でもしそうな機械的な動きでこちらに向けられた。
「悪ぃか」
「いっ、いえ!」
ドスの聞いた一言に、とんでもないと首を振る。すると百瀬さんは面倒臭そうに、ふんと鼻を鳴らした。
「寂しい奴だなお前もつっただろ。一緒に呑む相手なんていねぇよ」
――その眼鏡似合ってるわ。百瀬さん。
「黒髪モデルは……」
「あぁん?」
口悪く上がる語尾に、今度は顔の前で手を振る。
「いえっ! 何でもありません」
チッという舌打ちを聞きながら正面を向いた。電車の走るゴォという音が微かに聞こえてくる。これはJRだろうか、京急だろうか。
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